会社員から独立・副業へ:エンジニアのための「経理・事務」入門と効率化のステップ
会社員として働いていると、給与明細を受け取り、年末調整の手続きを会社に任せていれば、税金や社会保険に関する複雑な手続きについて深く考える機会は少ないかもしれません。しかし、フリーランスや副業として個人で収入を得るようになると、それまで会社が行ってくれていた経理や税務、社会保険に関わる手続きを自分自身で行う必要が出てきます。
多くの会社員エンジニアの方々が、独立や副業に関心を持つ一方で、「税金とか難しそう」「確定申告ってどうやるの?」「領収書の管理とか面倒そう」といった経理・事務作業に対する不安や疑問を抱えていると聞きます。技術スキルを活かして新しい働き方にチャレンジしたいのに、これらのバックオフィス業務がハードルに感じられることもあるでしょう。
この記事では、会社員エンジニアがフリーランスや副業を始めるにあたって避けて通れない「経理・事務」について、基本的な知識から具体的なステップ、そして効率化の方法までを分かりやすく解説します。この記事を読むことで、経理・事務作業への漠然とした不安を解消し、新しい働き方への一歩を踏み出すための具体的な道筋が見えてくるでしょう。
なぜフリーランス・副業に「経理・事務」の知識が必要なのか
会社員の場合、給与から所得税や住民税、社会保険料などが源泉徴収され、年末調整で税金の過不足が調整されます。これらは全て会社が手続きをしてくれます。
しかし、個人として報酬を受け取るようになると、これらの手続きを自分で行う必要があります。具体的には、得た収入から経費を差し引いて所得を計算し、その所得に対してかかる税金(所得税、住民税)を自分で計算して納めるための「確定申告」が必要です。また、事業に関連する取引(売上や経費)を日々記録する「帳簿付け」の義務も発生します。
これらの手続きを適切に行わないと、税金を納めすぎてしまったり、逆に税務署から指摘を受けたりといったリスクがあります。一方で、適切に経理を行うことで、納める税金を適正に計算し、控除や青色申告の特別控除といったメリットを享受することも可能になります。
会社員からフリーランス・副業へ:まず取り組むべき「経理・事務」の基本ステップ
フリーランスや副業として継続的に収入を得ることを考えている場合、最初にいくつか準備をしておくと後々の作業がスムーズになります。
ステップ1:開業届と青色申告承認申請書の提出を検討する
事業を開始したことを税務署に知らせるために「開業届」を提出します。これは必須ではありませんが、提出することで後述する青色申告を利用できるようになります。
合わせて、「青色申告承認申請書」を提出することをおすすめします。青色申告を行うと、最大65万円または10万円の特別控除を受けることができるため、税負担を軽減できます。また、赤字を翌年以降に繰り越せたり、家族への給与を経費にできたり(一定の要件あり)といったメリットもあります。提出には期限がありますので、事業開始から一定期間内に手続きを行う必要があります。
これらの書類は国税庁のウェブサイトからダウンロードでき、記入方法も解説されています。難しい場合は税務署の窓口で相談することも可能です。
ステップ2:事業用の口座とクレジットカードを分ける
個人の生活費と事業の収支が混ざってしまうと、経理作業が非常に煩雑になります。事業用の銀行口座を別途開設し、報酬の受け取りや経費の支払いをその口座に集約することをおすすめします。
また、事業用のクレジットカードを作成し、経費の支払いをこのカードで行うようにすれば、利用明細がそのまま経費のリストとなり、記帳作業の効率化につながります。
ステップ3:日々の取引を記録する「帳簿付け」を開始する
事業に関する売上(報酬の入金)や経費(ソフトウェア購入費、通信費、交通費、書籍代など)を記録することを「帳簿付け」といいます。青色申告で最大65万円控除を受けるためには、一定のルールに基づいた帳簿(複式簿記)を作成する必要があります。
最初は難しく感じるかもしれませんが、最近は使いやすい会計ソフトが多く提供されており、簿記の専門知識がなくても案内に従って入力していけば帳簿が作成できるようになっています。
ステップ4:請求書の発行と管理
クライアントに作業の対価を請求するために請求書を発行します。請求書には、請求金額、振込先、支払期日などを正確に記載する必要があります。
また、受け取った報酬や支払った経費の証拠となる領収書や請求書は大切に保管しておく必要があります。これらは確定申告の際に必要になるため、なくさないように整理しておきましょう。
ステップ5:確定申告を行う
1月1日から12月31日までの1年間の収入と経費を集計し、所得を計算して税務署に申告・納税する手続きが確定申告です。申告期間は原則として翌年の2月16日から3月15日までです。
前述の会計ソフトを利用すれば、日々の帳簿付けのデータから自動的に確定申告書を作成することができます。作成した申告書は、e-Tax(電子申告)や郵送、税務署への持参といった方法で提出します。
会社員としての給与所得がある場合は、フリーランスや副業で得た所得と合わせて確定申告を行う必要があります(一定の条件下では不要な場合もあります)。
面倒な「経理・事務」作業を効率化する方法
経理・事務作業は、エンジニアとしての本業や学習時間を圧迫する可能性があります。可能な限り効率化して、コア業務に集中できる時間を確保することが重要です。
1. 会計ソフトを積極的に活用する
現代において、手書きや表計算ソフトだけで帳簿付けを行うのは非常に非効率です。クラウド型の会計ソフト(例:freee、マネーフォワードクラウド確定申告など)を利用すれば、銀行口座やクレジットカードと連携して取引データを自動で取り込んだり、簡単な質問に答えるだけで簿記の知識がなくても入力が進められたりします。これにより、帳簿付けの時間を大幅に削減できます。
2. クレジットカードや電子マネーを最大限活用する
経費の支払いを現金ではなく、事業用のクレジットカードや電子マネーに集約することで、支出の記録が明細として残ります。これを会計ソフトと連携させれば、手入力の手間が省け、記帳漏れも防ぐことができます。
3. 領収書や請求書の管理方法を工夫する
紙の領収書や請求書は、紛失のリスクや保管場所の問題があります。会計ソフトのスマートフォンアプリで撮影してデータ化したり、スキャナーで読み取ってクラウドストレージに保管したりする方法があります。電子帳簿保存法に対応した会計ソフトを利用すれば、一定の要件を満たすことで紙媒体の原本保管が不要になる場合もあります。
4. 税理士への依頼を検討する
所得がある程度大きくなってきた場合や、経理・税務に時間をかけたくない場合は、税理士に記帳代行や確定申告書の作成を依頼することも有効な選択肢です。費用はかかりますが、経理にかかる時間を削減できるだけでなく、節税に関するアドバイスをもらえたり、税務調査の際にサポートを受けられたりするメリットがあります。
5. エンジニアならではの視点で自動化を考える
例えば、特定の取引が発生した際に自動で記録を促すような簡単なスクリプトを書いたり、API連携が可能なツールを組み合わせたりすることで、定型的な作業の一部を自動化できる可能性がないか検討してみるのも良いでしょう。ただし、税務に関わる部分なので、正確性を最優先に考える必要があります。
まとめ:経理・事務を乗り越え、新しい働き方を楽しもう
フリーランスや副業を始める会社員エンジニアにとって、経理・事務は避けて通れない壁のように感じられるかもしれません。しかし、必要な知識を体系的に学び、会計ソフトなどのツールをうまく活用すれば、思ったよりも効率的にこなすことが可能です。
最初から完璧を目指す必要はありません。まずは基本的な流れを理解し、使いやすそうな会計ソフトを試してみることから始めてみてはいかがでしょうか。経理・事務作業を適切に行うことは、事業を安定的に継続していくための基盤となります。この基盤をしっかりと築くことで、技術を追求し、自由な働き方を存分に楽しむことができるはずです。
この記事が、あなたが経理・事務への不安を乗り越え、新しいキャリアの一歩を踏み出すための一助となれば幸いです。