【会社員エンジニア向け】あなたの市場価値はいくら?副業・独立での適正単価の測り方
はじめに:自分の市場価値、わかりますか?
現在の会社でエンジニアとして働いているあなたは、日々の業務で培った確かな技術スキルをお持ちのことと思います。しかし、「もし会社以外の場所で働くとしたら、自分のスキルや経験はどのくらい評価されるのだろう?」「どれくらいの単価で仕事を受けられるのだろう?」といった疑問や不安を抱いたことはないでしょうか。
会社員の場合、給与は会社の業績や評価制度、勤続年数など様々な要素で決まります。一方、フリーランスや副業では、市場の需要と供給、自身のスキルレベル、実績、専門性などが直接的に収入に影響します。この違いから、「自分の市場価値」が曖昧に感じられ、具体的な一歩を踏み出すのが難しくなることがあります。
この記事では、会社員エンジニアが副業や独立を検討するにあたり、自身の市場価値を客観的に把握する方法、そして具体的な単価設定の考え方や交渉のヒントについて解説します。自身の「適正価格」を知ることは、自由な働き方を実現する上で非常に重要なステップです。
なぜ、副業・独立には「市場価値」の把握が不可欠なのか?
会社という組織から離れて個人として働く上で、自身の市場価値を理解することは多くのメリットをもたらします。
- 適正な報酬を得るため: 自身のスキルや経験が市場でどの程度評価されているかを知ることで、安すぎる単価で疲弊したり、逆に高すぎて案件を獲得できなかったりする事態を防ぐことができます。
- 自信を持って提案・交渉するため: 自身の価値を理解していれば、クライアントに対して提示する単価に根拠を持つことができ、自信を持って提案や交渉を進めることができます。
- キャリアの方向性を定めるため: 市場のニーズと自身のスキルを比較することで、今後伸ばすべきスキルや、より高い評価を得られる分野が見えてきます。
- ビジネスとして継続するため: 自身のサービスやスキルの価格設定は、事業の収益性や持続可能性に直結します。
会社員としての「給与」ではなく、スキルや成果に対する「報酬」という考え方にシフトする上で、自身の市場価値という尺度は欠かせません。
会社員エンジニアの市場価値を測る具体的な方法
では、具体的にどのようにして自身の市場価値を測ることができるのでしょうか。いくつかの方法を組み合わせることで、より客観的な視点を得ることができます。
1. 自己分析:保有スキルと経験の棚卸し
まずは、これまでのキャリアで培ってきたスキルや経験を詳細にリストアップしましょう。単に「〇〇言語が使える」だけでなく、どのようなプロジェクトで、どのような役割を担い、どのような成果を出したのかを具体的に書き出します。
- 技術スキル: 使用可能なプログラミング言語、フレームワーク、データベース、クラウドサービス、OS、開発ツールなど。習熟度(実務経験〇年、個人開発レベルなど)も添えます。
- 非技術スキル: コミュニケーション能力、プロジェクトマネジメント、要件定義、設計、テスト設計、ドキュメンテーション、プレゼンテーション、チームリーダー経験、後輩指導経験など、開発以外のビジネススキルも重要な価値となります。
- 実績: 過去に開発したシステム、改善した業務プロセス、貢献した成果(コスト削減、効率向上、売上貢献など)。具体的な数値を交えられるとより説得力が増します。
- 経験: 業界経験、特定のドメイン知識(金融、医療、ECなど)、大規模プロジェクト経験、モダンな開発手法(アジャイルなど)の経験。
これらを洗い出すことで、「自分は何ができて、どのような価値を提供できるのか」が明確になります。
2. 客観的な情報収集:市場の「相場」を知る
次に、外部の情報を参考に市場の相場感を掴みます。
- 求人サイト・転職サイトの情報を参考にする:
正社員、契約社員、そして特に「フリーランス・業務委託」向けの求人情報に目を通します。提示されている年収や月額単価、時間単価などを参考に、自身のスキルや経験がどのような条件の案件で求められているのかを確認します。企業規模や業界によっても条件は変動するため、複数の情報を比較することが重要です。
- 例:Wantedly, Green, Forkwell, レバテックフリーランス, Midworks など
- フリーランス向けエージェントの単価目安を確認する: フリーランス向けのエージェントサイトでは、登録エンジニアの平均単価や、特定のスキルセットを持つエンジニアの単価目安などを公開している場合があります。具体的な案件情報も多数掲載されているため、非常に参考になります。
- 技術コミュニティやSNSでの情報交換: 同じ技術スタックを持つエンジニアや、既にフリーランス・副業として活動している人たちと情報交換を行うのも有効です。ただし、個人の経験談はあくまで参考情報として捉える必要があります。
- 技術領域ごとの単価相場を調査する: Webアプリケーション開発(フロントエンド、バックエンド)、モバイルアプリ開発、データサイエンス、機械学習、クラウドインフラ(AWS, Azure, GCP)、組み込み系など、技術領域によって単価相場は大きく異なります。自身の専門分野の相場を重点的に調査します。
これらの情報源から、「自身の持つスキルセット・経験であれば、市場ではだいたいこれくらいの単価が期待できそうだ」という範囲を把握します。
3. 市場の需要と供給を考慮する
特定の技術や経験に対する市場の需要が非常に高く、かつ供給が少ない場合、単価は高くなる傾向があります。逆に、一般的なスキルや経験のみの場合は、競争が激しくなり単価が抑えられる可能性があります。
自身のスキルが、現在市場でどの程度求められているか、トレンドの技術であるか、あるいはニッチだが需要がある分野か、といった視点も加えることで、より現実的な市場価値を推測できます。
実践的な単価設定の考え方
自身の市場価値の概算ができたところで、いよいよ具体的な単価設定です。案件の形態(時間単位、プロジェクト単位など)によって考え方は異なりますが、共通する基本的な考え方とステップがあります。
ステップ1:目標収入と稼働時間を決める
まずは、「この副業や独立で、年間(または月間)いくら稼ぎたいか」という目標収入を設定します。次に、「週に何時間、または月に何時間、その仕事に時間を割けるか」という稼働時間を明確にします。
- 例:月20万円の副収入を目指し、週10時間(月40時間)を充てる場合
ステップ2:時間単価の基準を算出する
目標収入と稼働時間から、基本的な時間単価を算出します。
- 目標月収 ÷ 月間稼働時間 = 目標時間単価
- 例:20万円 ÷ 40時間 = 5,000円/時
この時間単価が、あなたが1時間働くことに対して希望する最低限の基準となります。ただし、これはあくまで基準であり、実際の単価は案件の内容や形態によって調整が必要です。
ステップ3:案件形態に応じた単価を検討する
- 時間単価(Time & Material): 実際に働いた時間に対して報酬が発生する形態です。上記で算出した時間単価をベースに、案件の難易度や使用する技術の専門性、クライアントの予算などを考慮して提示します。初心者や、まずは小さく始めたい場合に比較的受けやすい形態です。
- 月額固定(準委任契約に多い): 月の稼働時間を契約で定めて、月額報酬が固定される形態です。例えば、「月160時間稼働で月額60万円」といった形式です。この場合、時間単価は 60万円 ÷ 160時間 = 3,750円/時 となります。前述の目標時間単価や市場相場と比較検討します。
- プロジェクト単位・成果報酬(請負契約に多い): プロジェクト全体の完了や、特定の成果物に対して報酬が支払われる形態です。この場合、必要となる作業時間を見積もり、それに自身の時間単価を掛け合わせた金額をベースに、プロジェクト全体の難易度、リスク、期待される成果などを加味して合計金額を提示します。例えば、「このWebサイト開発一式で50万円」といった形です。作業見積もりが甘いと時間単価が極端に低くなるリスクがあるため、経験や見積もり能力が重要になります。
ステップ4:諸経費とリスクを考慮に入れる
会社員と異なり、フリーランスや副業では様々なコストやリスクを自分で負担する必要があります。これらを単価に含めることを忘れてはいけません。
- 税金・保険料: 所得税、住民税、国民健康保険料、国民年金保険料など。会社員時代より負担が増える可能性があります。
- 経費: 交通費、通信費、光熱費、使用するツール・ソフトウェア費用、書籍・セミナーなどの学習費用、コワーキングスペース代など。
- 営業コスト: 案件を探したり、打ち合わせを行ったりする時間もコストです。
- リスク: 案件が途切れるリスク、支払い遅延や未払いのリスク、体調不良で働けなくなるリスクなど。これらのリスクに対する「保険」として、単価を少し高めに設定するという考え方もあります。
これらのコストやリスクを考慮し、手取りとして希望する金額が得られるように単価を調整します。
クライアントへの単価提示と交渉のヒント
適正な単価が決まったら、いよいよクライアントへ提示し、必要に応じて交渉を行います。
- 単価に根拠を持たせる: ただ金額を伝えるだけでなく、「私のスキル(〇〇、××)と経験(過去の△△プロジェクトでの成果)をもってすれば、この案件で□□といった成果を提供できると見込んでおります。そのため、単価としては〇〇円/時(または月額〇〇円)でお願いできればと存じます」のように、提示単価が自身の価値や提供できる成果に基づいていることを明確に伝えます。
- まずは希望単価を伝える: 自身の希望する単価(ステップ2で算出した基準や、それに諸経費を上乗せした額)を提示します。
- クライアントの予算を確認する: クライアント側にも予算があります。「差し支えなければ、本件の予算感を伺ってもよろしいでしょうか」のように尋ねることで、 mutually acceptable な地点を探る手がかりになります。
- 交渉の余地を考えておく: 最初から最低ラインの単価を提示するのではなく、多少の交渉の余地を持たせた単価を提示することも戦略の一つです。ただし、安易な値下げは自身の価値を低く見せることにも繋がりかねないため、慎重に行います。
- 金額以外の条件も検討する: 単価だけでなく、契約期間、稼働時間、リモートワークの可否、支払い条件、関わる業務範囲など、金額以外の条件で調整できないか検討します。例えば、単価は少し下がっても、長期契約で安定が見込める、興味のある技術に触れられる、といったメリットがあれば受け入れる価値はあるかもしれません。
交渉は、単に「いくらならやります」というやり取りではなく、「お互いにとって最良の条件を見つけるためのコミュニケーション」と捉えることが重要です。
まとめ:自身の価値を理解し、自由な働き方へ一歩踏み出そう
会社員エンジニアが副業や独立を目指す上で、自身の市場価値を正しく理解し、適正な単価を設定する能力は、技術スキルと同じくらい重要です。
まずは、これまでの経験やスキルを丁寧に棚卸しし、客観的な情報を参考に自身の市場価値の目安を掴むことから始めましょう。そして、目標収入と稼働時間、諸経費を考慮して、自身の適正単価を算出します。クライアントとの交渉では、自身の提供できる価値を明確に伝え、Win-Winの関係を目指す姿勢が大切です。
最初から完璧な単価設定ができるとは限りません。経験を積みながら、自身のスキルアップに合わせて単価を見直していくことも必要です。
自身の市場価値を理解し、自信を持って価格設定や交渉ができるようになれば、より自由に、そして納得のいく形で、エンジニアとしてのキャリアを築いていくことができるでしょう。まずは、この記事で紹介したステップを参考に、自身の価値の棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。